インターネットの中核である「Web」は、最初は単なる「文書を相互にリンクする仕組み」としてスタートしました。リンクをたどって文書を読む――それがWebのすべてだった時代。そこから、アニメーションが動き、音が鳴り、ユーザーとインタラクティブにやりとりする「アプリケーション」へと、Webは目まぐるしく進化していきました。そして現代、3Dグラフィックスと物理エンジンが組み合わさった本格的なゲームすらWebブラウザ上で動作します。
この記事では、「Webとは何か」という原点から、JavaScriptやActiveXといった技術の導入、そしてWebGLやWASMといった最新技術まで、Webが進化してきた歴史とその技術的背景をひも解いていきます。
ハイパーテキストの誕生：Webの夜明け
1990年代初頭、スイス・CERNのティム・バーナーズ＝リーによって、World Wide Web（WWW）が考案されました。当時の目的は、研究成果を簡単に共有すること。そこで使われたのが「ハイパーテキスト」という概念です。
HTML（HyperText Markup Language）は、文書に見出しや段落、リンクをマークアップするための非常に単純な言語でした。当時のWebページは、テキストとリンク、そして画像が少し加わる程度のもので、「動き」はほとんどありませんでした。
HTMLは「静的な文書」を記述するもので、ユーザーの操作やリアルタイムなデータ処理を必要とする動的な処理は、サーバー側のCGIなどに頼るしかありませんでした。
JavaScriptの登場：ブラウザの中で動く「動的な仕掛け」
1995年、Netscape社は「LiveScript」と呼ばれる新しいスクリプト言語をブラウザに組み込みました。これがのちの「JavaScript」です。Javaとは無関係なのに、当時の流行語だったJavaの名前を借りて命名されました。
JavaScriptによって、Webページはユーザー操作に応じて動作する「動的コンテンツ」を実現できるようになります。例えば：
- フォームのバリデーション（送信前のチェック）
- マウスオーバー時の画像切り替え
- アラートの表示やポップアップ制御
当初のJavaScriptは非常に制限が多く、安全性も低いものでしたが、「ブラウザ上で即座に動作する」というインタラクティブ性が高く評価され、徐々に定着していきました。
ActiveXとFlash：Webに「リッチ」な体験を
1990年代後半、MicrosoftはInternet ExplorerにActiveXという技術を組み込みました。ActiveXは、WindowsのネイティブアプリをWebページに埋め込んで動かすようなもので、ゲーム、メディアプレイヤー、グラフ描画などが実現可能でした。
同時期に登場したのがAdobe Flash（旧：Macromedia Flash）です。Flashは、ベクターグラフィックス、サウンド、アニメーション、スクリプト（ActionScript）を統合したマルチメディアプラットフォームでした。
Flashは多くのゲームやリッチメディアサイトで採用され、以下のような革新的な体験をWebにもたらしました：
- ミニゲーム（育成ゲームやアクションゲームなど）
- アニメーションインターフェース
- ストリーミング再生（YouTube初期）
しかし、どちらの技術もセキュリティの脆弱性や互換性の問題が深刻化。特にActiveXはIE専用であり、他のブラウザでは動作しませんでした。
AJAXとWeb 2.0：ページ遷移しないWebの時代
2005年前後、GoogleがGmailやGoogle Mapsで採用したAJAX（Asynchronous JavaScript and XML）という技術が登場します。これにより、ページ全体を再読み込みせずに一部だけを更新できる「非同期通信」が可能になりました。
たとえば：
- 入力した文字に応じて検索候補が出る（サジェスト機能）
- スクロールに応じてコンテンツが読み込まれる（無限スクロール）
AJAXによってWebは「アプリケーション化」し、従来の「文書」からの脱却を果たします。この変化は「Web 2.0」と呼ばれ、ユーザーが参加し、共有し、インタラクティブにやり取りする時代の始まりでもありました。
HTML5とWeb標準：Flashからの脱却
2010年代に入ると、HTML5と呼ばれる新しい標準が策定され始めます。HTML5では、以下のような革新的な要素が加わりました。
<canvas>：2Dグラフィックス描画用の領域<audio>,<video>：ネイティブでの音声・動画再生- Web Storage：ローカルにデータを保存可能
- WebSocket：常時接続によるリアルタイム通信
これにより、Flashが担っていた多くの機能が標準技術で再現可能になり、セキュリティや互換性の問題を抱えたプラグイン技術は次第に姿を消していきました。
WebGLとThree.js：3D表現の進化
Web上での3D表現を可能にしたのがWebGLです。これはOpenGL ESをベースにしたブラウザ向けの3DグラフィックスAPIで、Canvas上で高速なGPU描画が可能になります。
ライブラリとしてはThree.jsが有名で、少ないコードで以下のような表現が可能です：
- 立体モデルの表示
- ライトやシャドウを伴う空間表現
- 複雑なアニメーションの再生
WebGLによって、シューティングゲームやレースゲーム、さらにはVR空間までがWebで構築可能となりました。
WebAssembly（WASM）：C++やRustをWebで動かす
JavaScriptは柔軟ですが、パフォーマンスには限界があります。ここで登場するのがWebAssembly（WASM）です。
WASMは、C/C++やRustなどのネイティブ言語をWebブラウザ上で高速に動作させるための中間コード形式であり、以下のような特徴があります：
- ほぼネイティブ並みの速度
- JavaScriptと連携可能
- 安全なサンドボックス内で動作
この技術により、従来はネイティブアプリでしか実現できなかったような大規模3Dゲームや物理シミュレーションが、Web上でも再現可能になりました。
PWAとクラウドゲーム：Webがプラットフォームになる
近年では、PWA（Progressive Web Apps）と呼ばれる形態で、Webサイトがアプリのように振る舞う仕組みが整ってきました。ホーム画面に追加でき、オフラインで動作し、通知も受け取れるなど、まるでネイティブアプリのような体験が可能です。
さらに、NVIDIA GeForce NOW や Xbox Cloud Gaming などのクラウドゲーミングサービスは、ブラウザからフルスペックのゲームを遊べる時代を実現しました。
つまり、Webは「情報を見る場所」から、「サービスを使う場所」、そして「ゲームやソフトを実行する基盤」へと進化してきたのです。
まとめ
Webの進化は、技術とユーザー体験の絶え間ない向上の積み重ねです。静的なハイパーテキストから始まり、JavaScript、Flash、AJAX、HTML5、WebGL、WASMといった技術革新を経て、いまやWebブラウザはゲーム機でもあり、アプリ実行環境でもあります。
今後、さらに5GやWebGPU、AIとの連携によって、Webはさらなる高みへと向かうでしょう。その中で、開発者も利用者も、進化の恩恵を等しく享受していくのです。
なのなの
元取締役、元音楽家、元SE、元レトルトカレー評論家、元ゲーム音楽家（SM調教師瞳シリーズなど）
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