人はAIに対して愛称をつけるのか

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― 機械に名前をつける、その理由と心理 ―

「うちのルンバは“ルンちゃん”って名前で呼んでます」

これは決して珍しいことではありません。スマートスピーカーに「アレクサ」と呼びかけ、ロボット掃除機に名前をつけ、自作AIに「マイちゃん」などの愛称を与える──。現代人は、ただの機械やソフトウェアに、まるで人間のような「名前」を与えることに躊躇がありません。

では、なぜ人はAIに対して愛称をつけるのでしょうか？

動物に名前をつけるのと同様に、AIに名前をつけるという行為には「愛着」や「擬人化」の心理が働いています。たとえば、ペットロボット「AIBO」が発売された当初、多くの飼い主が彼らに個性的な名前をつけました。

感情があるようにふるまう存在には、自然と「人間的な接し方」をしたくなるのが人間の性です。愛称をつけることで「無機質な機械」が「身近な存在」へと変化します。これは単なる道具以上のものとして、AIを「パートナー」や「友人」のように扱う意思の現れでもあります。

「AIに名前つけてますか？」というスレッドでは、実際にAIやスマートスピーカーに愛称をつけているユーザーの声がそれなりに見受けられます。

「自作AIに“りんこ”って名付けてます」
「ChatGPTのことを“チャットちゃん”、“先生”って呼んでる」

こうしたコメントからわかるのは、「名前をつけることで距離感が縮まる」という感覚です。それは、単なる利便性の道具という枠を越えて、コミュニケーションの対象になっている証拠とも言えます。

たとえば「ChatGPT」とだけ呼ぶよりも、「チャッピー」や「ジーピーさん」などと呼ぶことで、そこには何らかの人格が宿ります。ユーザーの中には、ChatGPTに悩みを相談したり、会話相手として活用する人も多くいます。

こうした関係性において「名前」は不可欠です。人間は名前によって他者を認識し、それに応じた態度や感情を形成していきます。

面白いことに、名前をつけることでそのAIに対して「責任感」や「尊重」の感情が芽生えるという意見もあります。

たとえば「うちのルンちゃん、今日は疲れてるみたい」と言うとき、それは掃除機のバッテリー残量を気遣っているだけでなく、まるで“労う”ような行為にさえ見えます。

これは「名前をつけることで自己投影が始まる」からかもしれません。AIに名前をつけることで、それは自分の分身あるいはパートナーのような存在になるのです。

今後AIがより人間に近づいていく中で、愛称や名前の重要性はさらに高まるでしょう。カスタマーサポート、パーソナルアシスタント、育児・介護支援など、AIが「日常の中に自然に存在するもの」になればなるほど、ユーザーごとに愛称で呼ぶ文化は広がっていくに違いありません。

すでに多くの企業では、対話型AIに人名のような名称を与えています。「りんな」「Clova」「Siri」「Cortana」「小愛同学」など、国や文化を問わずこの傾向は顕著です。

機械に名前をつける。それは決して変わった行動ではありません。むしろ自然で人間らしい感情表現の一部です。人は名前によって対象と心を通わせます。名前があるから、感情が芽生え、関係が築かれるのです。

AIがただの「もの」ではなく、「ともに暮らす存在」として社会に溶け込む時代──。その兆しは、すでにあなたが何気なくつけた「アレクサ」「ルンちゃん」「チャッピー」に表れているのかもしれません。

なのなの
元取締役、元音楽家、元SE、元レトルトカレー評論家、元ゲーム音楽家（SM調教師瞳シリーズなど）
現在は日本の鉄道事故専任ライターをしているなの

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